今日と明日のあいだ

独身のオジサンが、日々、思った事を綴ってます。

『わたしを離さないで』は、不思議な磁力を持つ小説だった!

遅ればせながら、やっと読了。
もう一ヶ月以上も前に買ってたんだけど、何かとやる事が多くて、ページを開いてなかった。今回、休日前に徹夜して一気に読んでみた。
読んだ本は、これ・・・。
IMG_20171020_162627
今年(2017)のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』だ。
恥ずかしながら、ノーベル賞のニュースを聞くまで、この小説家の事は知らなかった。
長崎で生まれた日系イギリス人って事で、テレビでも大きく報道されていたし、映画化された小説もあるって事なので、俄然、興味が湧いてきたんだけどね。
ノーベル賞を受賞ってなると、一冊は読んでおこうか
って思ったわけ。
選んだのは、現時点での代表作との呼び声の高い『わたしを離さないで』だ。

 


オレが小説を読むときに、一番、重視してるのは・・・
読者を引っ張っていく推進力が有るかどうか?
純文学にしてもミステリーや経済小説等の大衆文学にしても、読者をグイグイ引っ張る推進力が無いと面白くない、ってのが持論だからな。推進力ってのは、ストーリーの巧緻人物の造形語り口などなど、いろいろな要素が絡み合って生まれると思ってる。推進力があれば、その小説は面白いし、無ければつまらない。
もちろん、この推進力、オレにとっては推進力でも、他の人から見れば、ただのオンボロなエンジンかもしれないし、他の人には強力なエンジンでも、オレにはドロ舟かもしれない。
万人に共通しないのが、この推進力だ。
で、この『わたしを離さないで』は、推進力があるか?と言うと、
有る!
だけど、推進力よりも、もっと強烈に感じるのは、
磁力だ!
読者を引っ張る推進力よりも、一度、読者を引き付けたら離さない磁力だな。
このタイプの小説は、久々に出会った。当然、徹夜で一気読みだ。推進力グイグイ引っ張られての読書と言うよりも、磁力に絡め捕られて一気に読んだという感じだ。

まずは文庫本の背表紙から本書の内容を引用・・・。

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度・・・彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく━全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。

うん、たしかに魂を揺さぶる小説だった。といって、涙腺が崩壊して涙が止まらないとか、嗚咽を漏らすとか、そのたぐいじゃない。
なんていうか、もっと深い部分を揺さぶられる。
大袈裟な言い方をすれば、「人間の在りよう」を問いかける小説。

この小説は、SFとも言えるだろうし、ミステリーとも言えるかもしれない。
舞台は1990年代末イギリス。主人公キャシーの回想で語られてるんだけど、いろいろな「?」が提示される。
ヘールシャムって何だ?寄宿学校みたいなもの?
なんで外の世界とフェンスで隔絶されてるんだ?
「提供者」って何?
マダムの正体は?

様々な「?」が提示されるわけだ。
ここで有りふれたミステリーになってないのは、抑制された文章で描かれる「人間関係」があるからだと思う。10歳前後~16、7歳の子供たちの心理を実に見事に描いてるわけ。作中、いろいろな出来事が起こるんだけど、煽情的でオーバートークになりがちな部分も、抑制された文章で描くことで、妙に「写実的」なのだ。ヘールシャムだの「提供者」だの現実離れした構図も、この抑制された文章によって、目の前に見えるかのようだな。
子供たちの心理も、あ~、こういう事ってあるよなぁ、と納得させるだけの説得力。子供の心理ってのは日本もイギリスも似たり寄ったりだww
50頁も読まないうちに、この抑制された文章の「磁力」に絡め捕られた。抑制されてるからと言って、文章がカラカラに乾いてるのとは違う。これは訳者の技とも言えるだろうな。

読み進んでいくと、次々に謎が解き明かされるんだけど、半ば予想していた内容とはいえ、ちょっとショッキングな内容だな・・・。
neverletmego001a
以下、ネタバレを含む感想。
「人間の在りよう」を問いかける小説だと思ったんだけど、本書の内容は遺伝子工学とかクローン人間に関わってくる。こういう小説がイギリスから出てきたのは、なんか巡り合わせというか、何ていうか・・・。オレが10代か20代の頃だっけな、イギリスで「クローン羊」ってのが産み出されて大々的なニュースになった事がある。羊の名前は、たしかドロシーだっけな。けっこう論争になったんだよな。
神の領域への冒涜!
ってな。
クローンだの試験管ベビーだの代理母なんてのが、騒がれ始めた頃だ。あの頃から一貫して、オレの考えは変わってない。
超えちゃいけない線を越えてしまったな!
つまり・・・
反対って事だ。
大人の理屈で「作り出された」子供は、不幸なんじゃないのか?
って、今でも思ってる。
クローンなんて神の領域だろ。許されて良いわけない・・・。
まぁ、いろんな考えの人が居るんでね、オレと違う考えの人を否定はしないけど。
まぁ、ぶっちゃけた話、『わたしを離さないで』にはクローンが出てくるわけ。
彼らは幸せなのか?
それとも不幸なのか?

作者のカズオ・イシグロも明確には答えを提示してない。それぞれ個人の受け止め方に委ねてるのかな。
追い立てられるように頁をめくるという推進力はなくて、どんどん底なし沼に堕ちていくような「磁力」で頁をめくる小説。
不思議な「磁力」で読者を絡め捕る小説が『わたしを離さないで』だな。
懐の広い作家らしいので、他の小説も読んでみたくなった。

 


この小説は映画化もされているそうだ。観た事はないんで、機会をみつけて観てみたいと思ってる。
日本でもテレビドラマ化されてるそうだけど、そっちは観ない!原作の魅力を台無しにするドラマには辟易してるからな。
観ないでも分かるのか?って話だけど・・・
原作に描かれてるイギリスの・・・ある時は湿っぽい風景またある時は乾いた荒涼とした風景・・・日本のテレビでどうやって表現するんだ?
原作とは似ても似つかないモノになってたら、自分が悔しいからな。
もしかして、ドラマも名作と言われるデキかもしれないけど、それは、あれだ・・・。
あえて観なかったオレの運が無かった、と諦めるww

そうそう、作中に出てくる歌手、ジュディ・ブリッジウォーターだけど、実在の人物なんだな。原作のタイトル名にもなってる曲、Never Let Me Goyoutubeに有ったので紹介。
なるほど、この曲を聴きながらキャシーは踊ったのか・・・。
読了後、この曲を聴くと、なんだか小説の中の「あのシーン」が思い出される。