今日と明日のあいだ

独身のオジサンが、日々、思った事を綴ってます。

村上龍の技が冴える短編集「空港にて」・・・

1980年代の中頃から終わりにかけて、いわゆるバブル末期の頃だけど、何かにつけて「二人の村上」が比較された時期があった。文体がどうの・・・テーマがどうの・・・
要は、
どちらの村上が好きか?
って事になるんだろうけどね。
村上ってのは、もちろん春樹の二人だ。
今じゃ、立ち位置も方向性も異なってるように思うけど、日本文学の将来を担う若手作家と位置付けられていたからな。結果、期待にたがわぬ活躍ぶりだ。
当時は、他に追いかけてる作家も居たし、「二人の村上」はそんなに読まなかったけど、主だったところは押さえてるぞ。

 


で、今回は村上龍の話。
デビュー作の「限りなく透明に近いブルー」も衝撃的だったけど、記憶に残る文章をいくつも残してる。たとえば「希望の国のエクソダス」の中では、
「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけが無い」
なんて言葉を中学生に語らせてるんだけど、ぶっ飛んだからな。「閉塞感」の漂う現代の日本の現状を、中学生に一言で言わせてる。これぞ村上龍だな。
「閉塞感」ってのは、村上龍の作品の一つのテーマなのかもしれないけどね。

この「閉塞感」からの脱出・再出発を描いてるのが、本書「空港にて」だ。
たまたま入った本屋で偶然に見つけたんだけど、さすがに文章が上手い。
一息で読んでしまった。

空港にて (文春文庫)


八編の短編で構成された短編集だ。

  • コンビニにて
  • 居酒屋にて
  • 公園にて
  • カラオケルームにて
  • 披露宴会場にて
  • クリスマス
  • 駅前にて
  • 空港にて

の八編。
ここに登場する人物は、どこにでも居る人間。
何かしらモヤモヤっとした閉塞感を抱いてる人間たちだ。大学生、OL、子持ちの主婦、早期退職した中年男性、風俗嬢・・・実に様々な人間たち。彼らが抱える得体のしれないモヤッとした「閉塞感」を描いてるんだけど、書き方が凄い。
時間の凝縮だ!
ほんの数分の事を、ギュッと凝縮して描いてる。
どの短編も、時間を凝縮して、その短い時間の中での心情の変化を上手く描いてるんだよね。
「居酒屋にて」なんて、数分どころか、数十秒の出来事なんじゃないか?主となる人物の心情はもちろん、それを取り巻く人間たちの所作も丁寧に描かれていて、内面が透けて見えるような描写。
数分、数十秒の出来事を、ここまで凝縮させて描いてる小説は珍しい。
ダラダラと時間軸に沿って書かれてるんじゃなくて、ほんの短い時間(一瞬と言っても良い時間)の中で、主となる人物の心情の変化、「閉塞感」から抜け出そうとする気持ちを、ごく自然に描いてる。
これは、名人芸と言ってもいいかもしれないな。
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事件が起きるわけでもなく、ごく普通の人間の、ごく当たり前の日常を描きながら、「閉塞感」から抜け出そうとする「普通の人間」の姿を描いた短編集だ。
~背表紙~

コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム、披露宴会場、クリスマス、駅前、空港・・・。日本のどこにでもある場所を舞台に、時間を凝縮させた手法を使って、他人と共有できない個別の希望を描いた短編小説集。村上龍が三十年に及ぶ作家生活で「最高の短編を書いた」という「空港にて」の他、日本文学史に刻まれるべき全八編。

うん、日本文学史に云々は別にして、この本を読むと、何かしら「前向きな気持ち」になれる。
流行りすたりの激しい、うさん臭い自己啓発本を読むよりも、はるかに意義があると思ってる。
今回は、良い本を読んだ。


Amazon~その他、村上龍の作品~